■装備品の処遇
たとえば今まで銅の剣を使っていたとする。そして新たに鋼鉄の剣を手に入れたとしよう。そのとき、過去の武器となった銅の剣をあなたならどうするか。考えられる選択肢は、次の四つだ。
- 仲間に渡す
- 店屋に売る
- 袋に入れる
- 投げ捨てる
今回は、この四つの選択肢について、この上なく個人的な話をさせてもらう。であるからして、この上なく暇なときにでも読んでもらえればと思う。
■投げ捨てる
順番が前後するが、まず四つ目の“投げ捨てる”という選択肢。ゲーム中では、
*「おや? まってくれ。
どうも もちものが いっぱい
だったようだ。
*「どこかで うるか すてるか
してくるから よろしくな!
といった具合に、さも普通のことのように扱われているが、これを選ぶケースはほとんどないだろう。ポイ捨て禁止という側面もあるが、何より勿体ないからだ。アイテム欄にひとつ空きができる以上の意味がなく、偶然いいものが手に入ったけど持ち物がいっぱいで止むを得ず、という場合に限られる行動である。
それに“投げ”捨てるというテキストからは、別にこんな装備に愛着なんてねえし、みたいなニュアンスがしてちょっと悲しい気もしないでない。せめて地面にそっと置いてくれ。
■仲間に渡す
“仲間に渡す”。おそらく多くのプレイヤーが第一に考える選択肢がこれだと思う。他の仲間が銅の剣を装備できて今より強くなるという場合、そいつに渡して全体の戦力をアップさせるという賢いやり方だ。僕も昔はパーティ内で受け渡しして、装備を整えていた。
しかし、いつだったか、これは本当に良い判断なのだろうかという疑問が頭をもたげた。というのも、これもう使わないからお前にやるとかいって、刃こぼれしまくった銅の剣や汗臭いシミだらけの旅人の服を仲間に渡す場面を想像したときに、そりゃねえだろと思ったからだ。そんなことなら、少々弱くても前から使ってる棍棒や布の服のほうがずっとマシだ。
オマケに、そういう不条理に晒されるのは決まって主人公以外のキャラクターで、尚且つ主人公と装備品がかぶりまくっている奴だったりする。リーダーが新しい装備を手に入れるたび自分に回ってくるお古を眺めながら、
*「なんだ? オレはてめえの弟か何かか?
ふざけんな!
みたいに思っているかもしれない。また、プレイスタイルによっては、ずっと馬車の中にいて装備だけがお古からお古にグレードアップといった最悪のパターンも考えられるだろう。仮にも協力して世界を救おうとしている仲間同士なのだから、チームワークを乱すようなくだらん諍いは避けるべきではないか。
そんなわけで最近は使いまわしをせず、なるべく新品を買うようになった。そのせいで、お金が貯まるまで貧弱な装備のまま先に進み苦労することもしばしばあるが、はっきり言って良いのか悪いのかよく分からない。
■店屋に売る
誰もお古を装備できない場合、当然ながら“店屋に売る”という選択肢が出てくる。売って得たお金を別のアイテムの購入資金に充てる。じつに合理的なやり方で、昔はそれが当たり前だった。しかし僕の場合、いつしか売ることがほとんどなくなってしまった。“ふくろ”が登場したためである。
■袋に入れる
昔の作品で必要ないものを売るのが当たり前だったのは、所持できるアイテム数に限りがあったからに他ならない。言い換えれば、取っておきたくても取っておけなかったのである。FC版3からは預かり所が登場したが、いちいち預けに行くのが面倒、ソート機能がないので整理が面倒、手数料を取られる場合があってこれまた面倒、といった具合に三拍子そろっており、よほどのアイテム以外は、まぁ売るか、といった感じだった。
しかし、SFC版6から袋が登場し、状況が一変した。袋はあらゆる物を収納可能なだけでなく、SFC版3からはソート機能までついて便利そのもの。アイテムの保管・整理が格段に楽になったのだ。結果、僕の場合は“袋に入れる”という選択肢を選ぶことが多くなった。
■袋に入れる理由
だが、もう使うことのない銅の剣を取っておく理由とは何なのだろうか。自分でやっておきながら、改めて考えてみるとよく分からない。前述したとおり、合理的に考えれば売って旅の資金にしたほうがずっと賢明だ。にも拘らず、僕は銅の剣を袋に入れるという行動を採る。
真っ先に考えられるのは、一般的に言うところのアイテムコンプリートという奴を無意識に目指していた可能性だろう。
確かに7で袋のウィンドウの下に表示される青いバーが段々と細かくなっていくのは面白かったし、9でコンプリート率がどんどん増えていくのも楽しかった。しかし、実際は両方とも中途半端なままだ。いや、よくよく思い返してみれば自分には何かをコンプリートしたという記憶がほとんどない。つまり、僕が銅の剣をふくろの中に保管していたのは、アイテムコンプリートが目的ではないということだ。
では、他に何か理由があるのだろうか。たぶんない。そんなものは端から存在しない。僕は、ただ手間をかけることなく取っておけるからという理由だけで、使うアテのない銅の剣を袋に入れていたのだ。なんのことはない、物を捨てることができない且つ面倒くさがりという自身の性格を、ゲーム内でも発揮していただけだったのである。どうしようもねえな。
■おわりに
そもそも何でこんな話を始めたのかというと、“袋に入れる”という選択肢が自分の理想とするプレイスタイルとは間逆のものだからだ。僕としては、思い入れのあるアイテムやレアアイテム以外はバンバン売り払って、そのお金で新しいアイテムをバンバン買いたいのである。それが一番楽しいと思うし、変な言い方だけど健全だと感じるのだ。
しかし、実際は売らずに袋へ入れてしまう。初プレイ時は特にそうだ。二週目以降なら、最初の一品さえ躊躇いを振りほどいて売ることができれば、あとは足枷が取れたように売りまくれるのだが…………
だいたい、なんでこんな無駄な苦労をしなくちゃならないんだ? 何かの呪い?