■しょうにん

今回は、ドラクエ3に登場する職業【しょうにん】(以下、商人)について書こうと思う。


■基本情報

戦闘での役割で見ると、商人は打撃攻撃役になるだろう。パラメータはそこそこ高く、レベルの上がりも早く、装備も中々に充実しているので、序盤であれば十分な戦闘力を発揮してくれる。ただし、専門家である戦士や武闘家に比べると火力不足は否めず、船を手に入れた辺りから徐々に物足らなくなってくる。

だが、商人の最大の特徴は、なんと言っても戦闘後に余分にお金を入手できる点。費用のかかる戦士がパーティにいるのであれば、その能力が活きてくる。かもしれない。

しかし、FC版3の公式ガイドブックでは、

冒険の後半で商人に転職するのは無意味

と、バッサリ切り捨てられていたりする。前述のとおり、物語が進むにつれて戦闘では役立たず感が高まってくるし、所持金不足で困ることも少なくなるからだろう。そんなわけで、最後まで転職させずに商人を連れていく人は、たぶんあまりいない。

■△△△△バーク

そんな商人だが、物語を進めるために必ず必要となるイベントがある。簡単に説明させていただくと、それは次のようなものだ。

  • とある僻地に町を造りたがっているじいさんがいる。
  • じいさんは、町を造るには商人が必要だと言う。
  • じいさんの要望に応じ、商人を置いていくことにすると、
    商人は僻地に町を作り始める。
  • 町は順調に発展していき、そこに住む人も増えていく。
  • しかし、段々と商人のやり方に対して住人たちが不満を持ち始める。
  • ついには、その不満が爆発し、革命が起こる。
  • 牢屋に入れられてしまった商人は、町を造る過程で手に入れた
    イエローオーブの在り処を勇者に教える。

だいたいこんな感じだが、つまり必須アイテムのイエローオーブを入手するため“だけ”に、僻地に商人を置いていく必要があるのだ。まさに人身御供。

パーティから外れるとき、商人は次のように別れを言う。

*「おせわに なりました。
  さようなら ○○○○さん。
*「あなたとの たびのおもいでは
  いっしょう わすれません……。

もし、最初からパーティに入れていた商人とここで別れることになる人は、自然と涙が頬を伝うことだろう。話を進めるのに必要らしいからという理由で、長い旅を共にしてきた仲間を置いていかなければならないのだ。悲しいに決まってる。しかし、もっと悲惨なのは、イエローオーブのためだけに途中で商人をパーティに入れ、置き去りにした人だ。

上の方で「最後まで転職させずに商人を連れていく人は、たぶんあまりいない」と書いたが、正直に言えば、最初のパーティ編成で商人を仲間にする人すら、たぶんあまりいない。他の職業の仲間を入れたほうが、ずっと冒険が楽だからである。

つまり、仕方なく途中で商人を仲間に加える人のほうがずっと多いということだが、にも拘らず、あんな別れを言われた日には、申し訳なさで胸がいっぱいになってしまうじゃないか。だって、何の“おせわ”もしていないし“たびのおもいで”なんて五秒ほどしかないのだから。

もしかして、革命が起きるほどに商人がやりすぎてしまったのは、自らの意思など完全に無視され置き去りにされたことにより、自暴自棄になったからではないか。世界を救うために必要だったとはいえ、それは結果的にそうなったにすぎない。FC版の女商人なんて、ヤケになるあまり姿がおっさん化してしまったほどである。これは悲劇だ。

別れ際に商人が言う、

*「あなたとの たびのおもいでは
  いっしょう わすれません……。

という台詞の「……」の部分に、言い知れない何かがこもっているように感じる。あるいは、

*「やあ ○○○○さん
  おなつかしい!△△△△です。
*「みていてください。
  わたしは きっと ここを
  おおきなまちに してみせます!

という台詞や、

*「わたしの いまの いきがいは
  ここを せかい1の まちに
  することです。

という一見すると明るく思える台詞も、じつは気丈に振舞っているだけなのではという気もしてくるし、どことなく皮肉めいても聞こえる。

そんなこんなで暴走してしまった商人だが、革命が起こり、牢屋に入れられ、いったい何を思ったのか。

*「やあ ○○○○さん。
  わたしですよ △△△△です。
*「わたしは みんなのためと
  おもってやってきたのですが
  この ありさまです。
*「いまは こうして ○○○○さんの
  たびのぶじを いのって
  くらすことにしましょう。

これは、投獄された商人の自嘲気味な台詞だが、なんだか全てが馬鹿らしくなっているように聞こえないだろうか。やり場のない感情に任せて町を大きくしてきた結果がコレか、というような。商人の言う「みんなのため」の“みんな”とは、町の人のことでなく、勇者たちのことなのでは、という気もしてくる。

おそらく彼(彼女)は、心の底では勇者たちと旅を続けたかったのだと思う。イエローオーブを渡すことにしたのも、たぶんそのためだ。町造りの最中に商人がもらす、

*「むにゃむにゃ……。
  ええい このかいぶつめ!
  ぐうぐう……。

という寝言からも、そのことが伝わってくる気がしてならない。

■おわりに

一番役に立ちそうにない遊び人が、悟りの書なしで賢者になれるというアドバンテージを持っているせいで、商人が最も役立たずだと思われる方が何処かにいるかもしれない。しかし、世界の平和のために最も自らを殺し、犠牲にしているのもまた商人なのだ。

FC版の商人は、あのまま牢屋で暮らすことになるが、リメイク版であれば、再びパーティに加えることが可能になっている。正義のそろばんという最強クラスの専用装備もあることだし、もし可能ならまた一緒に旅することを考えてみても良いのではないだろうか。

了

UP:10/09/05
こんなのっぱら

―DRAGON QUEST FAN SITE―

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