■テンペ
*「ここは のろわれしむら テンペ。
*「このむらに うまれなければ
わたしの むすめも
しなずにすんだものを……。
これは、テンペを訪れたアリーナたちに、村に住む女性が漏らした言葉です。
ドラゴンクエスト4(第二章)で、テンペの村はある悲劇に見舞われていました。いつの頃からか北の森に住み着くようになった魔物に、若い娘を差し出さなければ村を滅すと脅迫されていたのです。村は魔物の言い成りになることで今まで滅亡を免れていましたが、元凶がなくならない限りその要求が終わることはありません。アリーナたちが村に立ち寄ったのは、再び魔物に生贄を差し出さなければならない、そんな時分でした。
此度生贄に選ばれたのは、村長の娘であるニーナです。彼女は結婚を控えている身でしたが、村のため犠牲になる覚悟を決めていました。しかし、喜ぶ者は一人としていません。父親である村長は村の存続と実の娘の命という板ばさみに苦しみ、母親はショックで寝込んでしまい、婚約者である道具屋の息子は村を捨ててニーナと共に逃げようと考えましたが、ニーナがそれを承諾せず身動きが取れない状態でした。
他の村人たちも、どうにもならない状況に絶望し嘆くばかりです。魔物に従い続けても根本的な解決にならないことは既に自明の理であり、そもそも、その時点で村に残っていた若い娘はニーナただ一人だけ。遅かれ早かれ、村は滅ぶと皆分かっていたのかもしれません。
そこで元来正義感の強いアリーナは、自分が身代わりになることを提案します。もちろん生贄になるつもりはありません。魔物をおびき出し、返り討ちにする算段です。見知らぬ旅人の申し出に驚く村長たちでしたが、最後の希望として村の命運を託すのでした。
かくして、アリーナたちの活躍により村は救わます。魔物がいなくなった喜びと感謝の言葉が彼女たちに向けられます。しかし。村からいなくなったのは、魔物だけではありませんでした。
そう。このページの冒頭に紹介した女性。一夜明け、彼女もまた、姿を消していたのです。しかし、その失踪についてゲーム中で触れられることは全くありません。何故、あの女性は消えてしまったのでしょうか。
ここからは僕の想像なので、適当に聞き流してほしいのですが、魔物が倒されたという出来事は、あの母親にとって必ずしも心の平穏を齎す物ではなかったのだと思います。もちろん、あの魔物は娘の仇なのですから、それが倒されたと知ったときは素直に喜んだかもしれません。しかし、それと同時に、もしくは少し遅れて、ある感情が生まれたのだと思います。何故なら、彼女の娘は死んでしまったのにニーナは死ななかったからです。
ニーナが先に生贄となっていれば娘は死なずにすんだのに。アリーナたちがもう少し早く訪れていれば娘は死なずにすんだのに。魔物が実際に退治されたという事実が、そういった過去に対する希望を彼女に抱かせてしまったのではないでしょうか。しかし、そんな希望は絶対に実現することはありません。そうなると、悔やみきれない想い、嫉妬にも似た憎悪、そういうものがあの母親の中に生まれたのかもしれません。
そして、それと同時に上記のような感情を持つことは良くないことだと彼女が思ったとしたら、村に留まり続けることは辛いことだったろうと思います。村にいる限り、永遠に怨み続けることになるかもしれないからです。正しいことではないと思ったとしても、理屈で納得できるものではありません。そもそも、彼女の苦しみは理不尽さによってもたらされたものであり、それを道理によって解決するのは困難ではないでしょうか。
村人の方にしても、あの女性に対して負い目があったかもしれません。彼女がいなくなって内心ほっとした部分もあったのでは、と邪推してしまいます。
僕は別に魔物を倒したアリーナたちを責めているわけではありません。あの三人は村にとって最善のことをしたと思いますし、救われた人もたくさんいます。ただ、事実として、あの母親は村を出ていってしまったのです。
彼女の失踪は、全てを救うことなど不可能だ、ということを示しているように思えます。救おうとしているつもりでも実際は苦しめてしまっているとか、一方を救えばもう一方を苦しめることになるとか、現実にも当て嵌まることのような気がしないでもありません。
そう言えば、テンペに初めて訪れた時、あの女性はお墓の前にいました。 おそらく死んだ娘のものだと思われますが、彼女自身が骨を拾いに行ったのでしょうか。だとすると、いったいどんな想いで森の奥の祭壇まで歩いたのでしょう。
★追記(10/09/26)
じつを言いますとですね。僕はリメイク版の4をプレイしたことがありませんでした。知人に変更点なんかをちょろっと聞いていただけで、手をつけてなかったのです。
それでですね。この頃やっとDS版をプレイし始めまして、さきほどテンペのイベントを丁度クリアしたところなんですけど、何といいますか、このページで取り上げさせていただいた件の女性なんですがね。フツーに怪物退治した後も村に残ってました、はい。
えー、つまりですね。この長ったらしい文章を最後まで読んでくださった方の中に、リメイク版4しかプレイされてない方がいらっしゃった場合ですね。当然ながら、
*「は? コイツ何いってんの?
みたいな感じだったと思われるんですよ、これが。オマケにですね。そのことを誰に指摘されるでもなく九ヶ月半近く放置し続けてですね。はっきり言えば恥ずかしかったというね。たまに真面目っぽいこと書いてみるかと思ったらこれですから。
しかしですね。よくよく考えてみれば元々の内容自体が、いわゆる
*「は? コイツ何いってんの?
みたいな感じだったわけで。じゃあ、あんまりダメージはないんじゃね? と自分に言い聞かせたり。というか、それを言ってしまえばこのサイトのあらゆる文章が、
*「は? コイツ何いってんの?
みたいな内容だというか、ここで恥を感じるのも今更というか、これからも恥を撒き散らしていくぜと開き直ったというか、まぁそんな話です。
そうそう、肝心の村に残った女性ですが、怪物が退治された後こう言っております。
*「ここは テンペの村。
*「死んだ わたしの娘も
ようやく 安らかに
眠れることでしょう。
どうですか。彼女の心が少しでも晴れたのであれば、どこぞの知ったかぶり野郎が恥をかこうがどうしようが、究極的にどうでもいい話ですよ、まったく。