■おうじのてがみ
【おうじのてがみ】（以下、王子の手紙）とは、ドラクエ４に登場するボンモールの王子リックがしたためた手紙で、重要アイテムの一つである。
■リック王子
リック王子は、隣国エンドールの姫であるモニカと互いに想いを寄せ合っていた。しかし、仮にも一国の王子王女である為なのかどうなのか、第三章時点では大っぴらな交際には至っていない。二人の接触は、秘密のルートを使って日記を交換し合うというささやかなものだった。
ところがあるとき、息子の気持ちを知らないボンモール王が、エンドール領を我が物とすべく攻め入りの準備を始めてしまう。王子としては、両国の戦争は何としても避けたい事態。そこで彼は、国に対する背信行為に走ることになる。その結果、書かれたものが王子の手紙というわけだ。
■手紙の内容
王子の手紙の内容は、次のようなもの。
愛する エンドールの姫 モニカよ。
キミのことを 父に 話せぬまま
いく日も すぎてしまった。
しかも 恐ろしいことに 父は
キミの国 エンドールに
攻め込むつもりらしい。
そうなる前に なんとかしなくては
ならない。どうか このことを
キミの父上に お知らせして……。
この続きに何が書いてあったのかは分からないが、リックはこの手紙を旅の武器商人トルネコに託し、モニカ姫へと運んでもらう。結果としては、エンドール王の機転により両国の戦争は回避されることとなったが、なかなかに危うい行為であった気もする。一歩間違えばボンモールが滅ぼされていたように思うが、王子はモニカ姫とエンドール王をよっぽど信頼していたということだろうか。
■王子の噂
PS版４の公式ガイドブック下巻では、王子の手紙の説明として次のようなことが書かれている。
とある国の王子が、隣国の姫君に当てて書いた手紙。あくまで噂だが、王子は字が下手らしい。
この噂の出処、十中八九トルネコである。彼は、その審美眼により王子の手紙を鑑定した際、次のように評価を下しているからだ。
トルネコ「う〜〜〜む……。
まったく 致命的に汚い字ですね。
トルネコ「私なら かろうじて
読めますが…… やれやれ。
４の世界の商人たちは噂好きで知られており、秘密だと自分で言っておきながら次の瞬間には他人に言いふらしているような奴らばかり。そして、トルネコも４の世界の商人に他ならず、じつに疑わしく思える。
■噂の真偽
しかしながら、王子の噂は真実なのだろうか。FC版のときには特に否定する理由もなかったので、リックの字は汚いのかと親近感を抱いていた。ところが、リメイク版の登場により噂は眉唾物である可能性が浮上したのだ。その理由は、王子とモニカ姫が遣り取りしていた交換日記にある。僕が盗み見たところによると、日記には次のようなことが書かれていた。
かわいいモニカ。
今日は もう５０回も君のことを
思い出したよ。
朝ごはんの目玉やきも お城の柱も
庭のネコも 池の魚も 屋根のカワラも
みーんな 君の顔に見えるんだ。
世界は モニカであふれている！
モニカばんざい！
この日記は いつもどおり
秘密のルートで エンドールへ
送るからね。 愛をこめて
内容はともかく、文章量は王子の手紙と同程度のものである。そして重要なのは、この日記を読むことができた人物はトルネコだけでなかったという点。アリーナや勇者、他の導かれし者たちも、王子の書いた日記の文章を読めたのだ。つまり、王子の字は致命的に汚くなどない、ということではないだろうか。
■トルネコの真偽
王子の字が汚くはないとなると、今度はトルネコのほうが問題になってくる。前述のとおり、彼は王子の字の汚さを“致命的”という修飾語を用いてまで表現しているからだ。
であれば、致命的に駄目なのは王子の字なのか、はたまたトルネコの鑑定能力なのか、という疑問が次の焦点になるだろう。何気なく噂を広めてしまったがために、今度は自らの名誉が傷つきそうな事態に陥ってしまうとは、まさに因果応報。彼の商人生命がかかった一大局面と言える。
と、いうのは冗談で、おそらくトルネコの眼は間違っていない。あの手紙に書かれた王子の字だけは、本当に致命的に汚かったのだと思われる。何故なら、あの時分の王子は、自身が住む国と想い人が暮らす国との間に戦争が勃発するか否かという状況に置かれていたからだ。筆を持つその手が、まともに動いてくれなかったとしても不思議ではないだろう。
■おわりに
王子の手紙からは、一人緊張状態にあったリック王子の心境がひしひしと伝わってくるようだ。“字が汚い”という間接的要素を付加することによって、書かれた内容の深刻さを一層際立たせてるように思える。このような手法により人物の内面を描写しているアイテムは、あまりないのではないか。じつに技巧的。まさに重要。数ある道具の中でも異質なものを感じずにはいられない。