■ロトの伝説三部作における神


■はじめに

ロトの伝説三部作における『神』について考える。話を単純にするための前提として、例えば神(かみ、カミ)という単語が出てくるA・B・Cの三つの台詞があるとすると、明らかに別の神だと判断できない限り、それらはすべて同一の存在として扱うことにする。

■神とはどういった存在か

最初に神がどういった存在かを見ていこう。

◆人々の信仰の対象である

すべてのタイトルにおいて、神は人々の信仰の対象となっている。規模の小さなDQ1にもそれが分かる台詞は登場しており、大神官ハーゴン率いる邪教との対立を描いたDQ2も無論そうだ。DQ3でも殆どの地域に教会が存在し、広く浸透していることが分かる。

*FC版DQ1:リムルダールの女性の台詞

*「やがて このまちも
  まものたちに……
  ああ カミさま……


*FC版DQ2:各地の神父の台詞

*「ただしき カミは
  ただしきものの みかたなり!


*FC版DQ2:ザハンの商人の台詞

*「そのことを しらせに
  きたのですが……。おお カミよ!
  わたしには とても いえない!


*FC版DQ3:各地の神父の台詞

*「たのもしき カミの しもべよ


*FC版DQ3:リムルダールの商人の台詞

*「おお カミさま!
  どうか この くにを
  おすくいください!

しかし、DQ2ではハーゴンの影響からか神を信じない人が増えているようだ。また、DQ3のジパングのように神を信仰していない地域もある。

*FC版DQ2:ベラヌールの神父の台詞

*「ちょっと いいですかあ?
  あなたは かみを
  しんじますかあ?

選択肢:いいえ

*「おお さいきん そういうひと
  ふえた、きっと ハーゴンのせい。
  わたし かなしいね。


*FC版DQ3:ジパングの神父の台詞

*「わたし このクニに カミのおしえ
  ひろめにきました。でも! オー!
  ここでは ヒミコ かみさまね!

◆勇者ロトに光の玉を授ける

伝説では、神は『ゆうしゃロト』に『ひかりのたま』を授けたとされている。

*FC版DQ1:ラルス16世の台詞

*「その むかし ゆうしゃロトが
  カミから ひかりのたまをさずかり
  まものたちをふうじこめたという。

ラルス16世のいう勇者ロトとはDQ3の主人公を指す。しかし、実際に勇者に光の玉を授けたのは『竜の女王』で、後述するとおり女王は神ではない。厳密に言うなら、神は間接的に勇者ロトに光の玉を授けたことになる。

◆竜の女王とラーミアを配下に置く

竜の女王は、自身の言によれば『カミのつかい』である。また、DQ3に登場する伝説の不死鳥『ラーミア』は、その卵を護っていた二人の巫女によれば『カミのしもべ』らしい。

*FC版DQ3:竜の女王の台詞

*「わたしは りゅうの じょうおう。
  カミのつかい です。
*「もし そなたらに まおうと
  たたかう ゆうきが あるなら
  ひかりのたまを さずけましょう。


*FC版DQ3:レイアムランドの巫女の台詞

*「でんせつの ふしちょう
  ラーミアは よみがえりました。
*「ラーミアは カミのしもべ。

◆転職を司る

DQ3で登場したダーマ神殿は、神殿というからには神を祀っていると思われる。ダーマ神殿でのみ可能である転職は、神の力を介した特別な儀式なのかもしれない。

それを踏まえて次の台詞を見てみる。

*SFC版DQ3:ルイーダの酒場の吟遊詩人の台詞

*「勇者が 天に 選ばれしものなら
  賢者は 神に 選ばれしもの。
*「きびしい修行をつんだもの だけが
  賢者に なれるそうな。

まず勇者のくだりは、勇者とは天命によって定められたものいう意味だろう。一方で賢者のくだりだが、賢者には転職でしかなれないという意味だ。事実、他の職業の仲間はルイーダの酒場で見つけることができるが、賢者を仲間にしようと思ったらダーマ神殿で誰かを転職させる以外方法がない。上記の台詞は、このシステムの説明でもあるのだ。

◆光の力の源である

次のような台詞が存在する。

*FC版DQ3:マイラの女性の台詞

*「カミは ひかり。
  まおうは くらやみ。
*「ひかりのたまが あれば
  まおうの まりょくを
  よわめることが できるでしょう。


*SFC版DQ3:マイラの占い師の台詞

*「神は ひかり。
  魔王は くらやみ。
*「神と 魔王は とおい昔から
  たたかいつづけてきた
  ふたつのちからの みなもと。
*「もし ひかりの玉が あれば
  魔王の まりょくを
  よわめることが できようぞ。

興味深い内容だが、取りあえずここでは、神は光の力の『みなもと』だ、ということで止めておく。それを念頭に考えると、光の玉とは文字どおり神の力を宿した玉という意味なのだろうし、次の台詞などは“神の御加護がありますように”と同義に聞こえる。

*FC版DQ1:ラダトームの城/メルキドの老人の台詞

*「ひかりが そなたと ともに
  ありますように…

また、ロトの伝説三部作において光(と闇)は物語の根幹をなす要素である。神を世界の創造主と断定していいものか分からないが、光の力の源であるならば、少なくとも原初的存在だと言えるかもしれない。

■神の候補

ここまで見てきたように神という単語自体はゲーム中に頻発しており、物語を考える上でも非常に重要な要素に思える。しかし、その神が具体的に“誰”なのか(誰と表現していいのかどうかは置いておくとして)については、まるでハッキリしない。神は姿を現しているのか、現しているのであれば誰がそうなのか、次はそれを考えたい。

◆ルビス

神の候補を考えたとき、まず思い浮かぶのが『ルビス』だろう。ルビスは、ロトの伝説三部作すべてに登場する『アレフガルド』の地を創造したとされており、その意味で神的な存在と言えるからだ。

*FC版DQ3:ルビスの台詞

*「わたしは せいれい ルビス。
  このアレフガルドの だいちを
  つくったものです。


*FC版DQ1公式ガイドブック:ルビスに関する記述

ここアレフガルドには、人々の間に永く語り継がれている、大地の精霊の伝説がある。大地の精霊ルビスは、遥かな昔に、緑あふれるこのアレフガルドの地を創造したという。人々は、今もなにかにつけ、このルビスの名を口にする。精霊ルビスは人々の心の中に息づいているのだ。

しかしながら、ルビスの名が語られるのはアレフガルドのある『下の世界』に限定される。竜の女王やラーミアがいる『上の世界』には一切登場せず、その創世に関与しているか否かはもとより、人々に認知されているのかどうかすら不明だ。更に、アレフガルドにおいてさえルビスは一貫して(大地の)精霊と呼ばれており、自身もそう称している。

*FC版DQ3:マイラの剣士の台詞

*「うわさでは せいれいルビスさまは
  にしのしまの とうのなかに
  ふうじこまれているそうだ。


*FC版DQ2:ペルポイの神父の台詞

*「しかし もし だいちの せいれい
  ルビスのまもりが あれば
  まやかしを うちやぶれようぞ!


*FC版DQ2:ルビスの台詞

*「わたしを よぶのは だれ?
  わたしは だいちの せいれい
  ルビス です。

つまり、アレフガルドの人々にとり神とルビスは別の存在である可能性が高い。本来であれば、自分たちの暮らす大地の創造者たるルビスを神としてもよさそうなものだが、そうでない理由は、彼らの祖先がもともと上の世界の人間だったからではないか。人々はアレフガルドへの移住に際して、神への信仰も持ち込んだのだ。おそらく。

以上のことから、個人的にはルビスは神である可能性が低いと考える。

◆神竜 / ゼニス

次の候補として『神竜』と『ゼニス』を挙げたい。登場はDQ3のリメイク版で、かつクリア後の隠しステージに限られるので原理主義的ファンにとっては受け入れがたい話かもしれない。しかしFC版にその存在を否定するだけの材料もないと思われる。

両者を候補に挙げる大きな理由は、『天界(てんかい)』に住んでいるためだ。というのも、市井の人々が神は天(あるいは空)にいると考えているからである。

*FC版DQ3:ジパングの神父の台詞

*「てんにまします われらがカミよ!
  この おとこの むすめを
  すくいたまえ。アーメン!


*FC版DQ3:サマンオサの神父の台詞

*「てんにまします われらがカミよ。
  ブレナンの めいふくを
  いのりたまえ。アーメン。


*SFC版DQ1:メルキドの兵士の台詞

*「かつて この世界が
  闇につつまれたとき
  ひとりの男が 空から
  落ちてきたそうだ。
*「その男こそが 勇者ロト!
*「もし この話が本当なら
  ロトは 神さまの申し子
  だったのかも知れんな……。

そして、実際に神は天界にいると考えたほうが色々と座りが良い。例えば次の台詞などがそうだ。

*SFC版DQ3:竜の女王の城のエルフの台詞

*「ここは 天界に 1番近い城。
*「もし まことの勇者の称号を
  得た者がいたなら その光の中で
  天界に みちびかれるそうですわ。


*FC版DQ3:ルイーダの酒場の登録所のおじさんの台詞

*「ロトとは かみにちかしきもの
  という いみの ことば。
*「しんの ゆうしゃのみが
  そのなを なのれるとききます。

神が天界に存在すると仮定して読めば、神の使いである竜の女王の城が地上で最も天界に近い場所である理由にも必然性が生まれるし、DQ3の勇者が天界に導かれる理由も、ロトの称号を得て神に近しき者になったからだと解釈できる(実際は勇者がパーティにいなくても天界へ行けてしまうが)。

その天界にリメイク版DQ3で赴くことができるようになったわけだが、重要なのは天界という設定自体はFC版で既に存在していた点だ。

*FC版DQ3:竜の女王の城の馬の台詞

*「ここは てんかいに 1ばんちかい
  りゅうの じょうおうさまの
  おしろです。

以上の理由から、たとえリメイク版にしか登場しないといえども、天界に置かれたという点において神竜とゼニスは神の候補に値すると言えるのではなかろうか。

というわけで、それぞれについて見ていこうと思うが、この両者に関しては考える範囲をロトの伝説三部作に限定すると少々物足りなく思える。そこで、以降は他のナンバリングタイトルにまで話を広げさせてもらうことを先に断っておきたい。

・神竜

まず次の台詞を見てもらいたい。

*SFC版DQ3:神竜の台詞

*「私は神竜。
  天界を 治める者だ。
神竜「いいだろう。ここまで来た
  ほうびに そなたの願いを
  ひとつだけ かなえてやろう。

神竜は(神がいるであろう)天界を治めている。同じような存在にDQ4に登場する『マスタードラゴン』がいるが、マスタードラゴンは天空城を治める竜の神だった。それに照らし合わせれば、神竜が神でもおかしくはないと思える。

*FC版DQ4:マスタードラゴンの台詞

*「わたしは このしろを おさめる
  マスタードラゴン。
  りゅうのカミと よばれているものだ。

加えて、勇者の父『オルテガ』を蘇らせるという願いを実現してくれる点も、超越者たる力を示すという意味でポイントが高い。

しかし否定的要素もある。『冒険の歴史書』で神竜は次のように説明されているのだ。

*冒険の歴史書:神竜に関する記述

神に等しい竜。

等しいとは何なのか。神なのか、神と似たような者なのか、非常に曖昧である。神そのものなのであれば、わざわざ等しいと書かなくても良さそうな気はするし、やはり神ではないのか、とも思える。

このように、神竜に関しては、神と断定できるほどではないが明確に否定もできないというのが率直なところだ。

・ゼニス

やはり最初にその台詞を見てみよう。

*SFC版DQ3:ゼニスの台詞

*「よくぞ 来た!
  わしが この城を治める
  ゼニス1世じゃっ!
*「ここまで来れば 今すこしで
  神竜に あえようぞ。
*「神竜に会えば どんな願いも
  かなうというもの。
  がんばるのじゃぞ。

ゼニスは、立場だけで言えば神竜の治める天界のほんの一部(城)を治めているにすぎない。そのためDQ3のみで判断するなら神とは思えないし、固有名詞までついている割には存在理由が希薄だ。

しかし、ゼニスはそもそもゲスト的な側面を持ったキャラクターでもある。SFC版3の直近のナンバリングタイトルであるDQ6に、同じ名前の人物が登場するからだ。

DQ6のゼニスは夢の世界を治める『クラウド城(ゼニスの城)』の王だった。クラウド城は後の天空城であることから、あるいは神のような立場でもあると言えなくもない。

*SFC版DQ6:ゼニスの城の兵士の台詞

*「クラウド城に ようこそ!
  ここは 夢の世界をたばねられる
  ゼニス王の お城です。

また、DQ9には『グランゼニス』と呼ばれる創造神が登場するが、グランが形容詞であるならば、ゼニスという名の神だと考えられる。

*冒険の歴史書:創造神グランゼニスに関する記述

全知全能の神。天使たちには「地上に人間界を創り、星空に天使界を創った者」としてあがめられている。

このように、他のタイトルに目を向ければDQ3のゼニスが神である可能性もなくはないような気がしてくるが、やはり断言はできない。

◆その他

もう一人、天界に気になる人物がいる。あの老人だ。

老人はゼニスの城から続く小部屋に住んでおり、見た目はその辺にいるじいさんと何ら変わりなく、固有名詞がついているわけでもない。そして、次のような台詞を吐く。

*SFC版DQ3:天界の老人の台詞

*「ほっ ほっ ほっ。
  神竜に 会いにいきなさるか?

選択肢:いいえ

*「うそを つくでない!
  そうでない者が どうして
  ここを通る!
*「もっと 正直に なることじゃな。

選択肢:はい

*「では その かまで にえている
  薬を 飲んでゆかれよ。
  あついから 気をつけるのじゃぞ。

老人の目の前には大きな釜があり、中で得体の知れない物が煮えたぎっている。そして、それを実際に飲んだ後で老人に話しかけると、こう言われる。

*SFC版DQ3:天界の老人の台詞(続き)

*「どうじゃ あつかったじゃろ。

これだけ。別にその薬とやらを飲もうが飲むまいが、特に何も変わらない。体力が回復することもないし、性格が変化するわけでもないし、炎・吹雪耐性が上がって神竜戦が有利になるとかいうこともない。

しかし、そのせいで余計に気になる。だいたい何のために置かれたキャラクターなのか、あの遣り取りはいったい何だったのか、全てが謎。あまりの意味不明さのせいで、こいつが本当の神なんじゃね?とすら思えてくる。

■おわりに

このページではロトの伝説三部作における神がどういう存在かを簡単にまとめ、その神の候補となるであろうキャラクターをいくつか挙げて妥当性を考えてみた。しかし、結局のところ候補は候補でしかなく、いずれも決定打に欠ける。

個人的にはルビスは違うと思うが、神竜やゼニスに関しては、天界にいることを主な理由に、その可能性があると現状では考える。もちろん必要なら、ゲーム中に登場していない存在を仮定して、それを神とすることも吝かではない。


UP:16/10/13
こんなのっぱら

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