■勇者inロトシリーズ(一)
【勇者】って、そもそも何なのでしょうか。
戦士や魔法使いとは何処か違うし、かといって盗賊や吟遊詩人でもなく、お裁縫の店の売り子さんでも大根を売る八百屋さんでもない、勇者という存在。
というわけで、今回はロトシリーズ(1・2・3)における勇者と、勇者を語る上で欠かすことのできない【ロト】という存在についてのおはなしです。しかし、いつにも増して、今更なに言ってんの? な内容になるニオイがプンプンします。ただ個人的にまとめておきたかっただけなので、ご容赦ください。
■ドラゴンクエスト1
まずは1から見ていこうと思います。
《王さまの台詞に見る》
物語の始まりで聞ける、王さま(ラルス16世)の台詞を見てください。
*「おお ○○○○!
ゆうしゃロトの ちをひくものよ!
そなたのくるのをまっておったぞ。
*「ゆうしゃ ○○○○よ!
りゅうおうをたおし そのてから
ひかりのたまをとりもどしてくれ!
王さまが言う勇者ロトとは、その昔アレフガルド(※)を支配していた闇の大魔王を倒し、世界に平和と光をもたらした伝説の人物のこと。勇者ロトと呼ばれているだけあって、紛れもない勇者です。そして、その血をひいている1の主人公(以下、あなた)のことも、王さまは勇者と呼んでいます。
※1の物語が展開される大地のこと。上記の台詞から“ロト”と“あなた”は勇者と呼ばれる存在であることが分かります。しかし、“あなた”は、ロトの子孫だという理由で勇者と呼ばれているのでしょうか。勇者の子は例外なく勇者で、それ以外の人たちはその他大勢でしかない?
《剣士の台詞に見る》
実は、1の世界で、勇者はそれほど限定的な存在ではないようです。それは、ラダトームの町をうろついている剣士の台詞から窺うことができます。
*「おおくのゆうしゃが
まちから とおくに たびにでて
そして しんだ。
*「ゆうしゃ ○○○○よ
おまえを しなせたくないものだな
つまり、アレフガルドに平和を取り戻そうと旅に出た勇敢な者たちを、一様に勇者と呼んでいるのだと思われます。逆に、もし“あなた”が竜王の討伐の旅に出ることがなかったとしたら、たとえ勇者の子孫であっても勇者と呼ばれることはなかったでしょう。勇気ある者が、文字通り勇者なのです。
《勇者にとってのロト》
しかしながら、1の世界には勇気ある者という意味での勇者とは別に【真(まこと)の勇者】なる存在があります。それは、言うまでもなくロトのこと。そのネームバリューはダテではありません。ロトは数多の勇者たちの憧れであり、その多くが、自分こそが伝説の再来でありたいと、心のどこかで願っていたと思われます。それは、FC版1の公式ガイドブックにある、次の文章が物語っています。
かつて勇者ロトが、闇の大魔王と戦った時に使った剣と鎧は、それぞれロトの剣、ロトの鎧として今の世に伝えられたが、その所在は不明になっている。この剣と鎧は、真の勇者たりえる資格を持つ者のみが、使うことができると言われ、今でも多くの勇者たちが、このロトの剣と鎧を探し求めているという。
つまり、ロトの武具を装備できれば、自分は真の勇者である可能性を持つと証明できるわけです。ゆえに、多くの勇者がそれを探し求めたのでしょう。
《真の勇者たりえる資格》
では、真の勇者たりえる資格とは何なのでしょう。ロトの武具を装備することによって可能性を示すことができるということは、やはりロトの血のことなのでしょうか。それともロトの魂を持つ生まれ変わりであること? あるいは、もっと別の何かなのか。
そのあたりはイマイチ分かりませんが、もし自分ではどうにもできない血や魂が条件だったとしても、勇者たちはロトの武具を追うことを止めなかっただろうと思います。
何と言っても、ロトが生きたのは400年近くも昔の話で、世界に平和を取り戻したあとの消息はほぼ不明という謎の人物なのです。その伝説が、自分の中に一滴も流れていないと誰が断言できるでしょうか。知らぬ間に遠い親戚関係になっていることだってなくはないでしょうし、そんな夢を見る人がいたとしても別段おかしなことではありません。それが魂ともなれば、殊更分からないでしょう。
このように考えてみると、あちこちで聞かれる次の台詞は、なんか本当にロトの血を引いているっぽい“あなた”に対する、勇者たちの妬みに聞こえてきやしないでしょうか。
*「おまえが ロトの ちをひくもの?
なにか しょうこが あるのか?
名乗るだけなら誰でもできるんだよ! このひよっこが! といった感じの台詞が言外に隠されていそうな、そうでないような。しかし、彼らはロトの大ファン。“あなた”がロトの子孫であると証明すれば、次のように言ってきます(リメイク版でのみ)。
*「ん? そ それはロトのしるし!
ロトの子孫が 現れたという話は
本当であったか…。
*「うたがって 悪かった…。
どうか あなたの力で 世界に
光を 取りもどしてくれ。
勇者の名に恥じぬ潔さ。その姿勢は見習いたいものです。
《胡散臭い三段論法》
さて。結局ロトの武具を入手し装備できたのは、他の誰でもない“あなた”になるわけですが、まだ真の勇者になったわけではありません。“あなた”はロトの印によってロトの子孫であると証明し、ロトの武具を装備することによって真の勇者たりえる資格を持つと証明したにすぎないのです。“あなた”が真の勇者と称されるのは、竜王を倒した後のこと。つまり、世界に平和を取り戻すことこそ、真の勇者になるための条件と言えます。
ということは、
- 世界に平和を取り戻せる可能性のある者=真の勇者たりえる資格を持つ者
- 真の勇者たりえる資格を持つ者=ロトの武具を装備できる者
- 世界に平和を取り戻せる可能性のある者=ロトの武具を装備できる者
となります。この三段論法もどきが合っているとするならば、ロトの武具自体が、
*「こいつなら 竜王を倒せるかも。
と言った感じに装備者を選定しているとも言えるのではないでしょうか。まるで生きているかのように。伝説の装備、おそるべし。
《まとめ》
では、取り敢えず1の世界における勇者についてまとめようと思います。
- 1の世界には、普通の勇者と真の勇者の、二つの勇者が存在する。
- 前者は、世界に平和を取り戻そうと旅に出た勇気ある者たちのこと。
後者は、世界に平和を取り戻した勇者のこと。
自分で書いておいてなんですが、普通の勇者って何か失礼ですね。申し訳ありません、普通の勇者の方々。語彙が貧困なので他に適当な言葉を思いつくことができなかっただけで、普通の勇者だって立派なことには変わりないと分かっているつもりです。
……なんだか弁解しようとすればするほど普通という言葉を連呼しすぎて馬鹿にしているような雰囲気に。何だ、この思いがけないジレンマは。そして僕は一人で何を言ってるんだ。