■オーリン(二)
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■復活
第五章でオーリンはフレノールという町の宿屋にいます。そして、同じ部屋には踊り子が一緒に泊まっています。彼女はいったい何者なのか、その台詞を見てみましょう。
*「わたし キングレオの しろから
にげだそうとして オーりンさまを
みつけたのです。
*「ひどいけがを していて
しんでいるのかと おもいました。
*「でも へいたいたちが おいかけてきたとき
オーりンさまが とつぜん たちあがって
この わたしを……。
*「オーりンさまは いのちの おんじんです。
ぽっ……。
どうやら踊り子は、進化の秘法の実験のためにキングレオに集められた若い娘のうちの一人だったようです。彼女の証言をまとめると、次のようになります。
- 踊り子が城から逃げ出した。
- 踊り子がオーリンを見つけた。
- 兵隊たちが踊り子を追ってやってきた。
- オーリンが立ち上がった。
この一連の出来事のどこかのタイミングで、語られていない何かが起こっていたはずなのです。あの時の状況を思い浮かべて、どのようなことが起こりえたか想像してみましょう。
第四章で聞ける証言によれば、キングレオの城から帰ってきた娘はいないということでした。つまり、それだけ城の警備は厳重だったわけです。この踊り子が門を抜けることができたのは、マーニャたちがキングレオの王さまの暗殺を企てた上に脱走までしたことで、城内が大騒ぎになっていたからだと思われます。
混乱に乗じて逃げ出した踊り子ですが、すぐに兵隊が追ってきたところを見ると、余裕のある逃亡劇ではなかったようです。いつ追っ手がやってくるか分からない恐怖心から、踊り子は何度も後ろを振り返ったかもしれません。
その逃走ルート上にあったのがオーリンの屍です。後ろが気になって仕方がない踊り子ですから、足もとにまで注意はいきません。それに、まさか城の地面にそんなものが転がっているとは思いもよらなかったでしょう。当然その存在に気づくわけもなく、思いっきり踏みつけてしまった可能性は考えられます。そう、ちょうど彼の左胸のあたりを。踊り子はきっと躓いて転んでしまったでしょう。そして、ひどい怪我を負ったオーリンを発見したわけです。
一見死んでいる(というか死んでいた)オーリンですが、左胸に強烈な一撃が加えられたことで心臓は密かに鼓動を再開していました。血液が全身に送られ、俄かに覚醒し立ち上がります。するとそこに先ほどまで戦っていた兵隊たちが。「お嬢様を守らなければ!」と彼は咄嗟に思ったことでしょう。アドレナリンが出まくりの身体で兵隊たちをやっつけます。
無我夢中で兵隊をやっつけたものの、ふと周りを見わたすとマーニャとミネアの姿はなく、見知らぬ娘が一人いるだけ。よく状況が掴めなかったはずです。はて、何が起こったのだろうと考えようとしたところ、もともとが死んでしまうほどの大怪我をしていたわけですから、そのダメージが一気に襲いかかってきただろうと思われます。
■逃亡
瀕死のオーリンでしたが、今度は何とか死なずにすみました。そして、踊り子に助けられながらフレノールの町まで逃亡します。しかし、ここにも疑問が生じます。どうやってキングレオの国を脱出したのか、という点です。なぜなら港町ハバリアからの連絡船は、マーニャとミネアが逃亡したせいで完全に封鎖されてしまったからです。
*「ここは みなとまちハバリア。
エンドールゆきの ふねが でる まちだ。
*「しかし このまえの ふねをさいごに
れんらくせんは でなくなったのだ。
*「ジプシーの しまいが ふねで にげたため
おうさまの とりしまりが
さらに きびしくなったのだ。
*「もはや この みなとから
ふねが でていくことは あるまい。
オーリンの謎を考察されていた方も、この点について言及されていました。そして、
“ライアンがあの大陸に渡っていることからして、完全に制限されているわけでもないようですが。”
と書かれていました。そう、どうやら国から出る船は制限されていたようですが、勝手にやってくる船までは手が回っていなかったようなのです。ライアン以外にも、他国からやってきたらしい人物は何人か見られます。踊り子とオーリンが、偶然その変の岸辺に密かに停泊していた船を発見し、それに乗せてもらった可能性は十分に考えられるわけです。もちろん、そういった船をタイミングよく発見できたことは幸運以外のなにものでもありませんが。
■おわりに
胸を踏みつけたくらいで本当に止まった心臓が動き出すのか、そんなことは知りません。